あひるの仔に天使の羽根を



イクミは頷いて言った。


「"中間領域(メリス)"は大まかに5つに分かれています。1つは教会、2つは女性の信者が住まう街、3つは神父達の閨」


やはり、彼女も"男"という言葉は用いない。

此処にも蔑視の概念があるらしい。


「4つはこれから向う、信徒以外の一般女性の街、そして5つ目が此処……貧民窟……」


ここは本当に"貧民窟"という呼称がついているらしい。


「この貧民窟は罪人の住む場所なんです。"断罪の執行人"の手を下すこともない、言わば見捨てられた最下層の者達が集った街……」


歩いていれば、長屋から少しずつ人が疎らに外に出てきている。


誰もがイクミ同様痩せ細り、最低限の着物で、目は虚ろだ。


「罪人ですから、生涯ここから出ることは許されません。毎日最低限の食料が神父から"慈悲"を与えられています。これでも……以前よりマシになったらしいですよ。家と食べ物があるだけ。

昔は……生きる為に互いを貪り食っていたらしいですから」


「……よかった…というべきなのかね、現状」


あたしは苦笑した。


「ええ、刹那様が現れていなければと思うとぞっとします」


また――刹那。


「それは、これから向う刹那?」


それまで黙っていた玲くんが、口を開いた。


「刹那様は1人しかいませんが?」


「……」


それに対し玲くんは何も言わず、また考え込んでしまった。


セツナ。


旭くんが口にして以来、何故か皆その名前に反応する。


玲くんも煌も凄く嫌そうな顔をする。


櫂だって、悲痛な表情を浮かべていた。