あひるの仔に天使の羽根を

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少女の名前は、イクミというらしい。


歳を聞けば、曖昧な反応。


どうやら判らないらしい。


最初小さい少女かと思ったけれど、成長不良だから肉体的には未熟なだけで、精神的にはあたしとそう変わらない歳なのかもしれない。


見た目だけでは12、3歳というところだろうか。


当初怯えたような姿勢を見せていたものの、玲くんのにっこりスマイルが彼女の警戒心を解いていけぱ、穏やかに話すようになった彼女の口ぶりは聡明なものともいえた。


どうやら青色の神父服を着た瀬良蒼生(せらあおい)……蒼生ちゃんが、包帯だらけの玲くんを抱きかかえて、突然彼女の家にやってきたらしい。


あの胡散臭い笑いと、問答無用の迫力に押されて頷いてしまったものの、本当に"わめくオレンジ"と"宥(なだ)める紫"が通りに現れるのかびくびくしながら辺りを窺っていたところ、"暁の狂犬"たる煌は、蒼生ちゃんの思惑通り以前と全く同じ…氷皇のバッチと菓子の残骸に導かれて、そして無事に遭遇したというわけだ。

あたし達が此の場所に行き着かねば、そして煌が路上の"それら"を見つけなければ、彼女は永遠に待ちぼうけを食らい、正体不明の包帯の王子様の面倒を見る羽目になる処だった。


まあ、その前に玲くんは目覚めていたかもしれないけれど。


「しかし煌の大活躍だね、煌があの石の扉を開くことを思いつかなければ、玲くんとこんなにすぐに巡り合えなかっただろうし」


あたしは嬉々として煌を褒めた。


すると玲くんは、何かを考え込むようにしていたけれど、


「……煌。誰の入れ知恵?」


煌自身の発想と考えていないらしい。


「……紅皇」


おお、皆が敬う偉大なる紅皇さんと、いつの間にやら連絡をとっていたのか。


さすがは紅皇、でかした煌!!


伝達方法を尋ねた玲くんに、煌は何ともふて腐れたような顔で左腕を上げると、腕環がきらりと陽光に輝いた。


腕を上げた意味があたしなは判らない。だけど玲くんは納得したのかそれ以上は追及せず、また何やら物憂い顔で考え始めた。


聡い玲くんの頭の中がどんな状況なのか、お馬鹿なあたしには見当つかない。


「……ねえ、イクミ。ここは"中間領域(メリス)"だよね?」


イクミ先頭に大分歩いてきたが、寂れた街並みは続いていた。