あひるの仔に天使の羽根を

 

「あの~」


神妙な空気を割ったのは、少女で。


「電気が沢山必要なら……行ってみます?」


「へ?」


「きっと刹那様なら、力に乗ってくれるのではと思うので」


「「刹那?」」


あたしが声を出す前に、煌と玲くんが同時に口にした。


怒っているような苛立った口調。



「……それは、お爺さんの刹那の方?」


玲くんの問いに少女はこっくりと頷く。


「私……時々お手伝いに行っているんで……。今は暫く行っていなかったから、私も刹那様に会いたいし……」


「……そういうことか。僕が此処に居たのも、氷皇の手の内か」


少しだけ悔しそうに玲くんが言った。


「玲? どういうことだ?」


「……"KANAN"の開発者が刹那っていう名前らしい。各務翁の知り合いだと荏原に聞いたんだ。そして彼はこの地の電気系統を制御している。自家発電か何かは判らないけれど、そこに行き着けば短期間で沢山の電気を補充できる。実際、僕が行こうと思っていた場所だ」


そして玲くんはにっこりあたしに笑った。


「じゃあ芹霞、僕と一緒に来てくれる?」


あたしは二つ返事で、喜んで頷いた。


まだ櫂と顔を付き合わせしたくないあたしは、自分のことばかりで。


逃げてもどうしようもないということは判っているけれど。


だけどこれ以上の傷が抉られる前に、時間が少しでも解決してくれることを、あたしは望んでいたのかも知れない。


あたしは、あたしが理解出来ない櫂と向き合うのが恐かった。


8年前の面影がない櫂との接触を、酷く恐れていた。



だから聞き逃したんだ。



「君が櫂を拒むなら――

僕は遠慮しないよ?」



そんな玲くんの言葉を。