そこには高飛車な女君主としての姿はまるでなく。
そして――
「堕ちるなら――共に」
赤い舌を突き出して、自らが作ったその鞭の傷痕を丹念に舐め始めた。
枯れ果てたような老人と、妖艶な美女。
それは淫靡というより、狂気のような場面で。
――刹那。
樒が呟いたその名前に、俺は目を細める。
――あいつみたいになっちゃうよ。"刹那"みたいにさ。
あの老人が、刹那だというのか。
――せり。
俺が危惧していた男は、老人だと?
鬩ぎ立てる心は、それを肯定できない。
しかし、血と傷を献身的に舌で癒そうとする樒の様からは、偽りの言葉を述べているように見えず。
その必要性すらない光景に、俺はどう考えて良いか判らなくなった。
大体。
樒の想い人であるならば、なぜこんな場所に入れておく?
この老人は、樒とどういう関係だ?
そう思っていた時、樒の泣く声が大きくなってきた。
「こんなに――こんなに愛しているのに!!!」
それはゼンマイの切れた玩具のように、"発狂"にも似ていて。
俺は、自分の姿を重ねてしまう。
芹霞を求める心が煽られてしまう。