「ああ~、壁に穴開いちゃったよ。簡単に穴って開くかあ? 余程切羽詰まってるのか知らないけど、物にあたるのよくないぞ?」


遠坂はそう俺に言った。


「――って、完全無視かい!! 何処に行くんだ、紫堂!!?」


「……桜を任せる。俺は"中間領域(メリス)"に行く」


俺は少し足を止め、遠坂を振り返らずにそれだけを言った。


「はあ!? 駄目だってば!! それだけは駄目!!!」


遠坂は慌てたように俺の腕を掴んだ。


「榊兄から聞いたんだよ、ボク!!!」


「……榊兄?」


俺は思わず目を細める。


「昨日此処で会った、あ……」


「"あ"?」


「…あ……あの従医さんのコトだ」


何故か遠坂は汗を掻きながら、苦々しげな顔で俺の視線を外した。


一体何だというのか。


「そ、その榊兄が、紫堂が此処を出ることあるなら、葉山の治療は強制終了され、それ処かこの"約束の地(カナン)"に居づらくなるだろうって」


――あの病人がいる限り人質だと思っていた方がいいよ?


「自業自得だと思うけど、須臾嬢が泣いているのに構わず放置プレイしたのが、お母様にはお気に召さなかったらしい」


――須臾が寝込んで儀式が出来なくなったら、どう責任とるつもりなの!?


儀式の為に、俺を須臾に縛り付ける気か。


「今葉山動かしたらやばいんだって!! それに君は大将だろ!!? 代わりに動いた皆を信じろよ!!?」