あひるの仔に天使の羽根を


飛ばされないよう重心を後ろにずらした俺の目に入ってきたのは、宙に大きく拡がる真紅色の…魔方陣のような図形。


それはまるで映画やゲームのCG技術のような赤光で彩られて。


「!!!」


目を瞠る俺の前で、それは突如紅炎の龍と化して、勢いよく俺に襲いかかってくる。



「お前……紫堂の者か!!?」



反射的に偃月刀で斬り払えば、紅龍はすっと消える。



振り払えたのが不思議なくらいで、炎の力に武器が通用するとは正直俺さえも思っていなかった。


もしかすれば…ただの威嚇のためだけのものだったのか。



「紫堂(あんなの)と一緒にされたら気分悪いね」


そう歪ませた顔は、陽斗が俺達によく見せていた嫌悪の表情で。


「"力"があるだけで権力に縋って生き延びようとするなんて、滑稽にも程がある。その前身の実態を知らない癖に」


「…緋影のことか?」


「緋影!? 馬鹿にしないでよ。あんな裏切り者」


こいつは、"何か"をよく知っているのか?


「ねえ。別に紫堂じゃなくても、これくらいの芸当は出来るさ、この"約束の地(カナン)"では可能になる。誰もが同じ立場になったのなら、紫堂の存在意義なんてなくなるよ?」


「は?」


「どうして、しかも今。この地に紫堂が呼ばれたと思うのさ? どうして僕が紫堂のことを知っていると思うのさ?」


くすくすくす。



「君も"火"の属性なのが残念だ。相克なら楽しめたのにさ」


くすくすくす。


「君は天使? 悪魔?

まあ――いいか。

その内総当たり戦になるんだから。

楽しみだよね。自分が選んだモノで戦い抜けるというのは」


くすくすくす。


「意味ないって僕は言ってたのにさ、"選別"なんて。

素人を使うべきじゃなかったんだよ。

もっと気概在る奴を使うべきだったんだ。

例えば――

君みたいな、ね?」