あひるの仔に天使の羽根を

 
"制裁者(アリス)"


忌まわしい俺の想い出。


俺の琴線に触れられたことで、俺の闘争本能に火がつく。



かちり。


スイッチが入った音がする。



俺は子供だということを忘却の彼方に捨て去り、右手の偃月刀を握り直す。


そして暗黙の不可侵距離を再び一気に詰めて、上段から刀を振り下ろせば、ゆらりと…首を傾げるような最低限度の動きだけで刃をかわされる。


何だ、こいつ――


戦い慣れしている。



櫂や玲の動きにもよく似て無駄ないその動きに、舌打ちした俺は踏み出した足を軸に下方から肘を入れようとすれば、軽い払い手だけで俺の重心は崩される。


同時に繰り出された蹴りを、傾いた態勢のままで右腕で弾き、偃月刀を横に持ち替えて横に引けば、金色の髪が僅か宙に舞い、チビ陽斗はざっと後退る。



「ふうん。速度も力もあるのに、動きが大きすぎて乱雑。それがなければ、致命傷を与えられたはずなのにね。折角、武器があるならもっと面白く有効活用してみようよ」


それは、まるで戦闘が好きで仕方が無いという戦鬼の顔で。


桜が完全キレて『漆黒の鬼雷』と還る時みたいな顔つきで。


そのままの顔で奏でる、くすくすという無邪気の笑い声だけが、場の空気を更に張り詰めさせて。


「折角自動"登録(エントリー)"が叶ったのだから、もっと死に物狂いで遊んでよ?」



そして子供が手のひらを俺に向けて何かを呟いた時、



「なっ!!!?」



目映い光と共に衝撃波のような風が吹いた。