穴の外は、夕暮れ色の空が拡がっていた。
僕は外壁に身体を凭れさせて、深呼吸をする。
心臓の動きを、意識的に鎮める為に。
眩しい夕日に目を細め、心臓の位置に手を当てた服地を握りしめる。
落ち着け。
発作を鎮めろ。
ゆっくり腹式呼吸に切り換えて、目を瞑る。
結界を作る紫堂の力がなければ、無力な自分を思い知る。
情けない。
こんな姿を芹霞にはもう見せたくはない。
暫く外気にあたり、佇んでいると何とか落ち着きを見せた心臓に安堵する。
「さて…じゃあ行くか」
ある程度、微弱な電気の流れていた先は想定出来ている。
僕が立っている場所は、いかにも"教会"じみた建物の裏側だった。
色取り取りの花が咲いている花壇と背の高い黒い柵。
回り込めば正面に出る。
門扉が閉められた入り口には、大きな十字架で封されている。
真ん中に存在を主張しているのは蛇。
よく見ればその蛇は、己の尻尾の先を口に含んでおり。
所謂"ウロボロス"…不老不死の象徴。
神父が首に付けていた十字架の蛇も、この門の蛇も、斜めの角度で十字架に巻き付いていたから、舌を出した蛇だと思っていたが、こうも拡大された状況で見れば、間違いなくこれは尾を口に含んでいるものだ。
「……不老不死、ね」
ついてまわるのは、"黒の書"。
"生ける屍"を産んだその不吉な書。
偶然か、必然か。
「この宗教は…恐らく……」
その時、人の気配がして僕は振り返る。
小さい身体。
白い服。
「きゃはははははは」
その笑い声は…。
「月(ユエ)!!!?」

