あひるの仔に天使の羽根を

 
櫂の時はどうだったかは判らない。


だけど櫂に対して、緋狭さんは一目置いているのが判るから、するすると緋狭さんの教えを吸収出来ていたのだろう。


緋狭さんが苛立つことがないくらいに。


目の前の壁から、カラカラと音をたてて瓦礫が落下し、我に返る。


外気功の程度は人それぞれだが、破壊力に応じて身体の負荷が違う。


煌は外気功を地面に叩き付け、足場を崩す時によく用いるが、あの爆発力を維持して連続して使うには、体力ある煌でさえ、3度が限度らしい。


皆、積極的に実戦で用いないのは、身体に負荷がかかるのを危惧する為だ。


長期戦が判っている時は、敬遠するのが常。


例えば僕のように、


「……っ」


心臓に不安を抱えている者が、負荷に負荷を重ねれば、自然と発作が導かれるわけで。



「やばいな、ニトロ…持ってないや」


それでなくとも心臓に重苦しさと不安定な鼓動感じて歩いていたというのに、窮状打開の外気功は思った以上の負荷を加えたらしく。


発作が起こりそうな兆候。


それなのに、常備薬は携帯していなかった。


僕にあるのは、今は役立たない月長石だけで。


「……」


否。


役に立てる――かもしれない、か。


連行の間に感じた電気の流れ。


それを追って根源に辿り着ければ。


そこでもし僕の月長石に電気を蓄えることができれば。


作った結界によって僕は守護され、それを攻撃に転じて"断罪の執行人"と相対し、そして桜を回復することも出来るのではないだろうか。


優先したい順序は狂うけれど、それでも確実にやるべきことを抑えていけるのならば。