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「芹霞は何処だ?」
無言の睥睨の後に、櫂様は久遠に低い声で問い質す。
「いきなりだね。無礼にも程があるよ」
久遠は、腕を組んで高飛車な態度で櫂様に返す。
荏原と数人の給仕は、剣呑な空気におろおろするばかりで。
「芹霞を返せ」
その言葉に、久遠は鼻で笑った。
「冗談。オレが拐(かどわ)かしたような口調はよしてくれよ。彼女は自らの意思で来たんだ。幾らオレが突き放しても、彼女が離れなかったんだ」
それは櫂様を挑発する言葉で。
故意的に煽る言葉ばかりを選んだ男に、感情を露わにしたのは
「黙りやがれ!!!」
やはり、馬鹿蜜柑で。
久遠の胸倉掴んで、いつものように引き倒そうとしたらしい馬鹿蜜柑は、完全に周囲の制止も訊かず、疾風のように動き――
「……軟弱なオレにそれはないんじゃない? 君がふらついてくれなかったら、オレ死んでたよ」
ああ、恐かったと双肩を竦める久遠。
足下には煌が、片膝をついた屈んだ格好で動きを止めていた。
そう。
久遠に触れようとした寸前で、煌の身体がぐらりと傾き、前のめりになって倒れそうになる処を煌が何とか堪えた…のだけれど。
確かに――
馬鹿蜜柑はまだ身体はふらついているけれど。
素人相手には十分な動きで。

