あひるの仔に天使の羽根を

 


どこまでに斜めに続く単純な1本道を歩いて行く。


会場では無駄口を叩いていた黄色い神父達も一切口を開かず、ただ無言のままの重々しい空気が流れるばかりで。


やがて道は、階下に潜るものとの2つに分かれた。


分岐点で立っているのは、黒い服を着た神父で。


体格はいいものの、顔半分に火傷の痕に覆われた男。


その男は、僕を連れた男達に警察官のように敬礼をしたが、黄色い神父の男達はその存在を無視するように通り過ぎる。


僕の行き先は地下ではないらしい。


正直、ほっとした。


酷く――醜悪な気が、地下から漂っているのを感じていたから。


思わず目を細めた僕。


妙な緊張感を孕んだような、危険な"邪気"が膨張している。


この…嫌な汗が流れるような忌まわしい気は、似たようなものを2ヶ月前に感じたことがある。


今は亡き元老院の1人、藤姫を纏っていた力。


その源である儀式の間の空気。


それに似ている。


そういえば櫂も、旭が連れた地下の石の扉の模様を見て言っていたか。


――やはり無関係ではない。

――この地は、黒の書と……。


そして櫂の"闇の力"だけが行使できる現実を思えば、やはりこの地には何かがあるのか。


緋狭さんの読み通りの危惧すべき何かがあるのか。


この地で何が起きているのか。


ぽたり。


僕の足下に何かが落ちる。


汗だ。


僕は、思っていた以上に、地下からの瘴気にあてられて緊張していたらしく、気づけば額からは嫌な汗が鬘の長い髪に伝い、僕の頬にべっとりと絡みついて、滴を落していたようだ。


「……あのさ、頭が汗ばんで気持ち悪いんだけど、鬘を捨ててもいい? ああ、心配なら勝手に取ってくれちゃって構わないから」


汗を拭うことも出来ぬ僕の懇願に、男達は目を合わせて無言で何か示し合わせていたようだが、やがて1人の男が僕から鬘を引っこ抜き、地面に投げ捨てた。


開放感。


それを味わう前に、僕達は歩き出す。


地下は――何処に繋がっているのだろう。


何があるのだろう。


今の僕には確かめる術はなく。