あひるの仔に天使の羽根を

 
「どうしても信者の修道服が必要で、各務家が申請したら時間がかかるから、それならあんたなら手に入れられるかと思って。だってその……温室でも相手してたじゃない?」


「君……馬鹿?」


そして大きい溜息。



「オレが仮にその服を手に入れられるとして。それでどうして君に渡すと思ってるんだ? 自惚れないで欲しいね。

言ったよね、オレは君が嫌いだと」


瞳が――冷たい瑠璃色へと変わる。


「嫌いだろうと何だろうと、あたしの大事な人の命がかっているのよ」


「そんなの知ったこっちゃない」


「そんなこと言わないで。何でもするから、ね、この通り」


あたしはじんじんする足を我慢して正座して、土下座した。


「無駄」


即却下した久遠は、そして何かを考え込むような素振りを見せて、瑠璃色の目をあたしに合わせてきた。


「ねえ大事な人って――

"櫂"? それとも"玲"?」


そう訊いた。


「君がそんなに必死になるのは"櫂"? "玲"? それとも違う誰か?」


突き刺すような真剣な眼差しに、あたしは少し怯んだ。


「玲くん」


あたしは正直に答えた。


すると久遠は嘲るように口許に嗤いを作り、喉元でくつくつ嗤ったかと思うと段々と大声で爆笑を始めた。


「こりゃあいいや。

惚れた女に土下座までさせるのが他の男の為だなんて、あまりに不憫で滑稽過ぎる!!! 何だよ、全然じゃないか、あの男!!!」


一体、何を言っているんだろう。


「判らないならそれでもいいさ。だけど君、オレと契約をする気あんの?」


「契約?」


「そ。頼み事をするにはそれ相応の報酬を貰わないとね」


にやりと、悪魔じみた妖艶な笑いを見せた。