――離れていよう。
そう言ったのは確かにあたし。
拒絶する櫂を制して、あたしは櫂から顔を背け、
そしてあたしは完全に、櫂の居る世界を拒絶した。
あの時のあたしの吐いた言葉以上に、
櫂に抱きつく須臾を
須臾に抱きつかれる櫂を
見ていたくなかったから。
随分と仲良くなっている2人。
あたしは遠くからそれを見つめ、
2人の間には入れない。
櫂は入れようともしない。
あたしと須臾の扱いは、決定的だ。
主に惚れ込んでいる煌や桜ちゃんもよくは思っていないらしい。
あたしは、あたしのこの感情が正当のものだと思いこむことで、そこに隠されたモノを知らないふりをする。
どす黒い穢れた感情を見ないフリをする。
それが露わになる前に、櫂の前から姿を消したかった。
今――
隣に須臾が居る。
部屋を出る時、何故かあたしを追いかけてきた須臾に、
あたしは矜持を捨てて懇願したんだ。
"久遠に会わして欲しい"と。
須臾はびくりと反応して、あたしをまじまじと見つめた。
「……。兄様はおよしになった方が賢明です」
何か勘違いしているらしい。
笑いたくない顔を無理矢理笑いを作り否定した。
「そうですよね。貴方には玲さんがいますものね」
何だか――
この兄妹は、やたらと"玲"の名を出してくる。
玲くんが一体何だと言うんだ。
「私が、兄様を連れたら――ますか?」
「ごめん、よく聞こえなかった」
「兄様を連れたら、紫堂様を私にくれますか?」
須臾は突然奇妙なことを言い出した。