あひるの仔に天使の羽根を

 

「……櫂、芹霞は大丈夫なんだろうな」


いつも毅然と、悠然としている櫂がこんな表情をさらけ出すのは、芹霞が絡むとき以外にはありえねえ。


しかも凄く深刻な時だ。


思わず、低い声を出してしまう。


「あいつは…元気だ。心配はない」


一先ず、心配事は1つなくなったけれど。


多くを語ろうとしない櫂。


芹霞の名前に、一瞬びくついた櫂。


「だったら……」


「煌。時間がないので、早く」


引かない俺に苛立ったような桜が、櫂の手にある小瓶を俺の目の前に差し出した。


俺の視界に飛び込んだ、それ。


――たぷん。


中の液体が揺れた。


「……」


非常に。


この上なく。


途轍もなく。


存在自体が間違っているような、


"やばい"を具現化したような、濁りきった緑色。


見るからに胡散臭いその色の前では、俺の橙色の方が可愛く思えてきちまった。


抹茶とか青汁なんてのは、如何に澄んだ色合いだったんだろう。


何だ――それは。


「煌!!!」


ずい、と桜はそれを俺に突き出した。


小瓶の中で、たぷんと波が揺れる。


桜はそれ以上を言わず。


無言で、その意味を捉えろと目で訴えてくる。


「おいおい、まさか…」


どう見てもそんな怪しげなもんを


「飲め、とか言うんじゃねえだろうな?」


否定しない空気に、俺の顔は引き攣った。