あひるの仔に天使の羽根を



「……遠坂、肩貸せ。櫂の処に…芹霞の処に俺を連れろ」



「ええ!? 豆っ娘のボクが君の巨体支えるの~!?」


思い切り、嫌そうな顔をされた。


「仕方がねえだろ!!! 豆でも歩けるんだから協力しろ!!!」


「ええ~!? 豆にだって人権あるんだってば!!!」


もう、カッチンだ。


「豆は植物だろうが!!!

俺はそこまで馬鹿じゃねえぞ!!?

なあ。俺は気は長くはねえんだ。あんまごちゃごちゃ言ってると……」



「素人の女の子に威嚇など。

……馬鹿蜜柑」



桜が蔑んだような顔で立っていた。



その背後に、ゆらりと揺らぐ影。


「……大丈夫か?」


深みある声。


憂いの含んだ切れ長の目。


美貌の俺の主が立っていた。


「おう、心配かけて悪かったな。まだ身体は動かねえんだけど……ってか、お前こそ大丈夫かよ、酷え面だぞ、櫂!!!? 何があったんだよ!!?」


憔悴。


最後に記憶した櫂の顔は、宴の時。


あの時も元気がなかったけれど、ここまで酷くなかった。


完全にやつれちまってる。


櫂は一瞬苦しげに眉根を寄せながら切れ長の目を伏せたが、すぐに端正な顔を上げ苦笑した。


「俺は大丈夫だ。煌、そんなことよりも玲が解毒剤を手に入れた」


櫂が何かの小瓶を俺に見せたが、俺の視界に入ってこねえ。


「そんなことよりって……」


俺のことなんかどうでもいいだろ!!?


どうみても大丈夫じゃねえ。


放っておけば崩れそうな、櫂の儚げな表情に。


――芹霞、か?


直感だった。