「どうして俺じゃなくて
玲を呼んだんだよ!?」
荒げられるその声に。
冷静な櫂らしくない、その迸るような激情に。
あたしは泣きそうになる。
「何で黙ってんだよ、芹霞ッ!!!」
玲くんは。
櫂の代わりに煌を助ける手掛かりを見つけに行ってくれたんだ。
須臾といちゃついている櫂の代わりに。
「玲と約束したんだもん……」
だから、行ってくれた。
「何かあった時には玲を呼ぶって。
だけどあたし……」
自分でなんとかしようとしたから、
だから玲くんに謝っただけだもん。
「玲のことを呼び捨てにするなッ!!!」
空気がびりりと震えた。
ここまであたしに怒鳴る櫂は見たことは無い。
手負いの獣のように、目だけで威嚇して。
あたしを。
このあたしを敵だとみなすの、櫂。
「約束したんだもん……」
あたしの声が震えた。
「玲はあたしを護る為に、女装してくれてんだよ?
いっつもほっこり笑って、櫂の傍で櫂の影に居てくれる、優しい従兄の玲くんなんだよ?
"くん"を取って呼んだっていいじゃない。
名前の呼び捨てくらい別にいいじゃない」
途端。
櫂は端正な顔を苦渋に歪ませて目を瞑ると、苛立たしげに漆黒色の髪を掻き毟りながら俯いた。
垣間見える眉間の皺は、かなり深いもので。
そして重なる、溜息と歯軋りと。
興奮したような櫂の乱れた呼吸が、場の空気を更に重くさせる。
それは、あたしへの怒りなのか。
あたしは、そこまで櫂を怒らせることをしたのか。

