あの男――
"久遠"なら、"せり"の拒絶反応がなかったその理由。
「芹霞……」
何も判らないから、だから櫂のことも判らない。
何故に呼称に拘るのか。
「どうして――
オレを拒むんだ…?」
その悲痛な声色と顔は、見ているあたしの胸を痛くさせる程で。
「拒む? 考えすぎよ、櫂。
あたし達は永遠以上でしょ?」
あたしは笑う。
引きつりながらも、懸命に笑う。
子供を必死にあやす、母親のように。
「お前は――
俺に線を引いてる。
理由を…言ってくれ。
俺があんなことをしたからか?」
あんなこと――。
櫂の言葉が何を指すのか判った。
だけど――
そればかりではない。
言えるわけ無いじゃない。
須臾と仲いいから気分悪いなんて。
須臾じゃなく、あたしを隣に置いて、なんて。
口を開こうとしないあたしに、櫂の顔は益々翳りに覆われていって。
――芹霞ちゃあああん
「なあ。
どうして――
オレの名を呼ばなかったんだ」
――オレに組み敷かれた時、呼んだよね?
「どうして――
玲だったんだ?」

