「判っている人達が出かけちゃってるし。よく聞いておけばよかったね」


正直、須臾のことなんて知りたくはないけれど。


何だか玲くんが説明してくれたような気もするけれど……。


桜ちゃんは尚も大きな目をくりくりとさせて考え込んでいる。


忠義心篤い桜ちゃんとしては、すぐ駆けつけたい心境なのだろうが、あたしだって2人が何処の場所にいるのか判らないのだし、更には紫堂の護衛団長とはいえ、手負いの身。


そんな状態のまま、不穏な空気渦巻く見知らぬ地で、闇雲に主を探索する程危険なことはないだろう。


「すぐ戻ってくるって言ってたし、それにもしここに刺客が来たら、煌を守りきれないよ。またあの双月牙食らったら、今度こそ」


「双月牙?」


桜ちゃんは怪訝な顔をした。


「双月牙って、あの船で襲ってきた?」


「そう。あの女が部屋に待ち構えていて、襲われていたあたしを庇って煌がああなっちゃったの。煌が居なければ、あたしは即死だったわ」


「……ちッ。許さねえ…」


僅かに横に背けられた桜ちゃんの顔から、舌打ちとドスのきいた低音が響いた。



「え?」



聞き間違いかと思ってもう一度聞き返せば、


「判りました。桜はここに居ます」


いつもの桜ちゃんの顔が真正面にいる。


やっぱり聞き間違いだったらしい。