しかしそれは旨く行かなくて。


「紫堂様。これから式典が始まりますが……」


一度退室した荏原が、ノックをしてまた入ってきた。


手にしていた背広。


そこには玲のものもあるらしい。


「悪いけれど……僕は辞退したいな」


玲は苦笑した。


「あまり表立ちたくないんだ」


玲は俺の影だという。


だからこそ、俺と共に太陽の下には出たがらない。


昨日の宴は女装だから、だからきっと俺と同席した。


その前の記憶は、俺の次期当主披露パーティーで。


その席で玲の母親は、紫堂に呪いの言葉を吐いて自殺した。


それ以来、玲は極端に俺と共に表に出ることを拒んだ。


「だけど、櫂が襲われるわけにはいかないし」


その玲の煩悶に満ちた呟きに、須臾が反応した。


「"断罪の執行人"が動くのは夜間ですので大丈夫」


だが――

船で襲われた時はまだ明るかったのではないか?


何か――ひっかかった。


「では――どうでしょう」


須臾が躊躇いがちな上目遣いで俺を見た。


「私のパートナーとして出席しませんか?」


「は?」