「"生き神様"とは?」
何かがひっかかる。
「この地に住まう全能なる父です。生きている神、ですね」
「生きている?」
「ええ。全ては伝承ですが、ここと"中間領域(メリス)"の間に在る"深淵(ビュトス)"の塔にお住まいになられているといわれています。そして儀式が終わった私が、5日後に住まう場所。
"生き神様"は、力は弱まっているけれども死ぬことはありません。永遠に」
――生ける屍。
俺は2ヶ月前のことを思い出した。
何だか、"生き神様"が神聖なものとは思えない。
何か価値観が違う。
そして価値観と言えば、
「この地における"男"の意味合いは?」
すると須臾は少しだけ言葉を詰まらせ、そして言う。
「蛇、です」
「蛇?」
「蛇は禁忌を犯すものだと、この地では言われてます。各務家は、"中間(メリス)"ほど厳しくありませんが、家族とて一緒に眠ることはありません」
「それでも、俺を含めて外部から男を集ったその意味合いは?」
「判りません。全てはご当主…樒様のお考えですから」
「ご当主というと……昨日は現れなかった方か。父上ですね」
すると須臾は静かに首を振る。
「いいえ、お母様です」
ここの当主は――女、なのか。
「紫堂様は、各務家にご興味がおありなんですか?」
俺は多分――
必要以上に熱心に、耳を傾けすぎたのだろう。
ただ好奇心を満たす情報収集をしていたはずだったのに、
気づけば須臾は俺の隣に座り、ねっとりとした視線を向けてくるようになった。
はっきりいえば。
困惑だ。

