「"聖痕(スティグマ)の巫子"は、13年に1度くらいの周期で各務から誕生するそうです。伝承では、背中に隠された叡智の理が浮かび上がるとか。
未熟な私に聖痕は現れていません」
須臾は、苦々しい表情を見せた。
「私はこの棟にて育ちましたが、だからといって閉じ込められているわけではありません。"神格(ハリス)"内なら自由に歩き回れます。
"聖痕(スティグマ)の巫子"なんて名称戴いても、私自身特に何が出来るというわけでもないんです。何故私か、私自身不思議なくらいで。
実はまだ"聖痕(スティグマ)の巫子"も仮なんです。正式な儀式を経て、初めてなれるものなので。この棟は、それまでの拠点。正式にその名を継げば、私は"生き神様"の元に行くのでもうここには戻れません」
「"生き神様"って?」
「鏡蛇聖会の聖書には、悪を抑える、全能なる我らが父だと」
基督教みたいなものだろうか。
その時、僕は船で僕達を襲った刺客の服装と十字架を思い出した。
「ただ……現在、"生き神様"はある契約という楔に縛られ、邪悪なる蛇の力にて身動き出来ない状態だとか。"生き神様"に力を与え、そして楔を解放するのが、私…"聖痕(スティグマ)の巫子"の勤めです」
蛇――。
あの刺客がつけていた十字架…そして桜が持っていたあの十字架にも、蛇が絡みついていた。
神聖なる十字架と邪悪な蛇。
「契約って何? 誰との?」
何故だか――気になった。
しかし須臾は頭を横に振った。
「私にも判りません。それは謎となっていて、聖痕に答えがあるとも言われていますが、実際はどうなんでしょう?」
須臾は続けた。
「"聖痕(スティグマ)の巫女"は、16歳の誕生日をもって、俗世とは縁を切り、"生き神様"だけに仕える正式な巫子となります。
私に与えられた自由な時間は、あと5日間。
幸か不幸か、丁度この地の祀りともぶつかり、更には私にとって初めてこの地の住人以外の方々を迎えることに。
緊張していましたが、皆様私達と変わりない"人間"のご様子で安心しました」
何だ、この言い回し。
僕の目は、自然と細められた。

