「君は――櫂が好きなの?」


すると須臾はこれ以上ないという程真っ赤になって、両頬に手を添える。


「好き……という感情が私には判りません。

だけど……宴で見かけた瞬間、何かが囁いたんです。

運命だと」


それは、恋だ。


須臾は、今まで恋愛をしてきたことがないに違いない。


「その後に部屋に戻ってもドキドキして眠れませんでした。だから落ち着かせるために外を散歩していたら凄い音がして、見れば紫堂様方がいらっしゃり。どうあっても皆様で一緒にいらっしゃいたいように思えたので、私の独断でここにお連れしてしまいました。私の頭には、安全な場所というものがここしか思いつかず、こんな場所で本当に申し訳ございません」


その須臾の機転で僕達は共に居れる。


「ありがとう、本当に助かりました」


恥じらうように笑う須臾。


「だけど、どうして此処が安全だと?」


微笑みながら、僕は聞いてみた。


「誰にも手出しが出来ぬ絶対不可侵の領域ですので」


僕は目を細める。


「"神格(ハリス)"という意味で?」


「いいえ。"神格(ハリス)"とて"断罪の執行人"は例外ではありません。だからこそ、ご来客の皆様にも、男女別の棟をお願いしていた次第で。ただし、1つだけ。この"聖痕(スティグマ)の巫子"の棟には手出しできない決まりになっています」


「"聖痕(スティグマ)の巫子"?」


立て続けの質問に、須臾は嫌がることなく応えてくれた。


「この"約束の地(カナン)"という土地には"生き神様"が居られます。そしてその教えを"鏡蛇聖会"が伝えていて、罪を犯すことは許されません。もし罪を犯したら、"断罪の執行人"が罪の裁きを下す……そうして"約束の地(カナン)"は育って参りました。

"断罪の執行人"は唯一此処……"神格(ハリス)"の"生き神様"に仕える"聖痕(スティグマ)の巫子"と呼ばれるものの周辺には手出しが出来ません」



――"いきがみさま"


旭は確かにそう言っていた。