僕は思い出す。
「あの……紫堂様とはどのようなご関係ですか?」
女装したままの僕に、こっそりと聞いてきた須臾。
意味が判らなくて首を傾げた僕に、
「恋人……ですか、紫堂様と」
僕はあまりに吃驚し過ぎて、思わず咽せ込んだ。
ハンカチを差し出した須臾を片手で辞し、何とか落ち着いた頃に僕は否定した。
ありえない、と。
嬉しそうな笑みが零れる。
確かにこの楚々たる少女は美しいという形容に入る部類だ。
宴の時に感じた、一般的観測が嘘のような
穢れなき無垢な少女。
清らかな聖少女。
気狂いの血を引き、主の元にて浅ましい…邪念を抱く僕などが、決して触れてはならないような、そんな光を纏っているように思えた。
今時、こんな少女がいるのかと感嘆すらしてしまいたくなる。
そして――
彼女が身に纏う外套から、垣間見えるピンク色の寝間着(ネグリジェ)。
男が居るのに何て無防備な。
これが作為的ならば、彼女はかなりの知能犯だ。
聖と淫を混在させた美しさは、男を誘うものだから。
だけど――それだけだ。
僕には何の感慨もない。
第3者的にしか眺められない。
僕にとって各務須臾とは、ただの人形の器で。
それが、ただ寝間着という洋服を着ているだけで。
どんなにか細い、男の征服欲を更に刺激する声を出されても、
僕の"男"は何1つ動き出さない。

