あひるの仔に天使の羽根を


祈るように、その手に力を込める。


――さらさらの直毛って、いいよなあ。


やや癖毛気味の橙色の髪の毛は、汗でべったりと濡れ、煌の望む直毛に近い形状になっている。


頬にへばり付いた橙色の髪を後ろに掻き上げてあげると、


「……せり……」


多分、あたしの名前を呼んだのだろう。


――り。


吐息のような小さな声だったけれど。


――ねえ、せり。


突如聞こえた幻聴に、あたしは頭を横に揺らして振り切った。


「煌、あたしは此処に居るよ。頑張って。負けちゃ駄目だよ」


涙交じりの声になってしまう。


夢の中まで、あたしを護らなくていいから。


すると一瞬だけ、煌の表情が和らいだ気がした。


気のせいかも知れないけれど。


だけど煌の手を握り声をかけるだけで、少しでも煌の痛みが緩和されるのなら、声が枯れても呼び続けていたいと思う。


「……ねえ、神崎」


由香ちゃんが声をかけてくる。


「如月についていてあげてよ」


「……うん」


「如月はやっぱ神崎がいいんだな。表情が穏やかになったし。意識なくても君のことだけは判るんだね」


ぽりぽりと、由香ちゃんは頭を掻いた。