紫堂の警護団の団長は圧倒的な勝利を修めねばならないと、昔桜ちゃんに言われたことがある。
過去唯一敗北した相手が自分の上司だということは、この上ない光栄なことで、自分は本当に恵まれているのだと
真冬の或る日――
桜ちゃんがそう語ってくれたことがある。
あたしと桜ちゃんの間で、そんな会話が成されたことに、櫂も煌も酷く驚いていたけれど。
次の日、本当に東京が吹雪になったけれど。
いつでも桜ちゃんは、あたしとの接触を意志的に控えているような節があったから。
きっとそれは誰もが思っていたことに違いない。
本音…と思えるような、2人だけのやりとりがあったのはそれ1回限り。
孤高の強さを見せつけてきた警護団長がどうして――
「ねえ、桜ちゃんの首の跡何!?」
くっきりと、重度の鬱血でどす黒く変色した指の跡。
それはまるで――
蛇が首に絡みついたみたいに。
「僕と櫂がかけつけた時、桜は倒れていたんだ」
「誰!? あの修道服の女!?」
「……修道服の女?」
玲くんは目を細めた。
「うん。煌を追い詰めたのは、船で襲ってきた…陽斗とよく似たあの女の双月牙なの。煌は、あたしを庇ってくれたの」
あたしが受ければ、煌が苦しむことがなかったのに。
寝台に横たわる煌は、とにかく苦しそうだ。
お姫様ベッドの中央にいるのがよりによって煌なのが、無性に可笑しい気はするけれど、絶対目覚めれば真っ赤な顔で飛び起きるだろうけれど、判っていればこそ早くそんな姿を見たくて仕方が無い。
そんな元気な姿を見せてくれるのならば、煌にだってフリフリドレスを着せてやる。
だけど今。
苦痛に喘ぐ声だけが、煌の"生"を確認させる証となるなんて。
「櫂は、君と煌以外の人影を、見てないと言っていたけど」
逃げたのか、あの女は。
「葉山をこんなにしたのはあの女なのかな?」
由香ちゃんの呟きに、玲くんは端麗な顔を曇らせた。

