あひるの仔に天使の羽根を



玲くんの表情が厳しいものになる。



「煌は……

高熱を出して意識を失ったまま、あっちの部屋で寝ている。

何とか、命はある……そんな状態で予断を許さない。

あの煌を蝕む程の毒……正直今まで僕も見たことがないから、効果的な解決策が思いつかない」


「毒?」


「そう。切りつけられた傷から猛毒が染みこんだみたいだ。

煌の著しく早い回復力をもってしても、毒の進行に押され気味だ。何とかしないと……」


玲くんは、唇を噛んだ。


「このままでは、良くて煌の腕が腐り落ちる」


じゃあ悪くて――?


「煌は何処!?」


あたしは部屋を飛び出した。



部屋の外では騒がしい音がする。


由香ちゃんの声だ。


「葉山、だからそういうことはボクがやるからいいんだよッ!!! 如月の面倒はボクに一任されているんだからッ!!! あ~本当にもう、この石頭ッ!!!」


此処に煌がいるのか。


部屋のドアを開けば、桜ちゃんが煌の額にタオルを置いていた。


桜ちゃんの服装は、昨日の宴の時のままで。


ただ短髪の鬘はなく、腰までの長い自分の髪を垂らしている。


蒼白の顔色で無表情の桜ちゃんを、由香ちゃんが頭を抱えながら制していた。


どこまで少女趣味の部屋が続くのか。


時さえ止めてしまう、甘く淡い色合い。


正直、胸焼けしそうだ。


絨毯も調度品もカーテンもベッドも天蓋も。


これでもかというくらいのフリフリに覆い尽くされ。


これでもかというくらいの人形に囲まれて。


何だか眠くさえなってくる。


もし桜ちゃんがいつもの女装姿でいたならぱ、

桜ちゃんはこの部屋に馴染んでいたのだろうか。


黒対白の軍配はどちらにあがっていたのだろうか。