「あの海を潜り抜けた悪運の強さには感服するが、その運もここまでだ。
罪深きお前を、主は決して許されない」
金色の瞳から奔り出るのは
――殺気。
ゆらりと一歩踏み出したその動きに、
胸にかけてある十字架が揺れた。
十字架に蛇が巻き付いている。
「つ、罪深いって……あたし何かした?」
あたしは後方を振り返り、一歩後退る。
背中に洗面台の冷たい感触を感じた。
もう――下がれない。
「無知が罪。
暗愚が罪。
忘却が罪。
彼の者との誓約を忘れ、
私の警告を無視し、
再びこの地を荒そうとする。
これは断罪に値する」
"断罪"。
「貴方は――"断罪の執行人"?」
すると女は、にやりとした笑いを作った。
「ほう。そんな言葉は知っているのか」
そして取り出したのは、あの武器。
2つの三日月が背中あわせになっているような、双月牙。
あたしは背後で静かに蛇口に手をかけた。

