「いいよ、あんたは櫂の護衛でしょ。ちょっと部屋に戻ってすぐ帰ってくるだけから」
「……お前、人並の方向感覚持っているか?」
「うう。でもほら、メイドさんもいるしさ」
「いいって。俺が行くから」
「あたし子供じゃないし」
「ついて行くって言ってんだろ?」
煌は頑として聞き入れない。
そこまであたしは頼りなく思うのだろうか。
そう考えた時、煌の言葉が蘇る。
――ここを抜けたら言いたいことがある。
「ああ、そういえば、煌はあたしに真剣な話があるんだっけ」
ぽんと一つ、柏手を打って、
「判った、判った。じゃあ一緒に行こうか」
煌ににっこりと微笑めば、
「……」
煌を除いた全員が、妙に強ばった顔をあたしに向けてきた。
無言のままで詰るようにあたしに向けられる皆の瞳。
「な、何?」
櫂は、何かを堪えているように、端正な顔を辛そうに歪ませて。
玲くんは、伏せた目の長い睫が微かに震えて。
煌は――
「ああ、話しようぜ?」
酷く真剣な顔で、食い入るようにあたしを見つめて、低い声音で言った。
「うん?」
煌と話をしてはいけないんだろうか。
櫂と玲くんの姿を見れば、そんな思いもしてくる。
由香ちゃんは、何とも言えないような顔をして、あたし達全員の顔を見比べながら、頭をぽりぽり掻いている。
そんな時、
「僕が行きます」
突然桜ちゃんが立ち上がった。

