思わず櫂の脇腹を抓る。
実際、櫂の身体に無駄肉がなかったから摘むものもなく、それが癪に障り、ますます意地になって鍛えられた肉体の一部を、無理やり指に力入れて抓ったんだけど。
声すら上げずに不審げにあたしを見るその態度に、あたしの機嫌は更に悪くなる。
全く、理解していない。
どうして判らないの!!!
――鈍チン同士だよね。
鈍いのは、櫂!!!
あんた財閥の御曹司でしょ!!
『気高き獅子』なんでしょ!!
いつもテストで満点でしょ!!!
完璧主義貫くなら、完璧に判りなさい!!!
気づけば少女も櫂を見つめていて。
隣の煌も少女を見つめているし。
あっちもこっちも――
ああ、腹立たしい。
完全あたしの八つ当たりは、煌にも被害を及ぼして。
そんな時、
男の声の馬鹿笑いが響き渡った。
飲兵衛の次期当主らしい。
まるで櫂と月とすっぽん。
会場が嫌悪の情に満ち、しらけた雰囲気になっている。
だけどね、
あたし思ってしまったんだ。
ああ――
よかった、って。

