「うっわ~、天然ってこわっ。無知ってこわっ。

そんな大声で平気で卑猥なこと言っちゃうんだ」


哀れんだような声がして振り返れば由香ちゃんで。


「師匠でも真っ赤になるんだね~。師匠って、実は結構百戦錬磨っていう気がしていたけど、やっぱ神崎が言うとだめか~」


全く意味が判らない。


「ありゃりゃ、葉山。おお~い、戻ってこ~い」


玲くんの傍らに居た桜ちゃんは、口も目を開けたまま微動だにしない。



「しかし君も凄いね、如月。茹で蛸超えたよ? 君が一番重症だ」


由香ちゃんの視線を追って後ろを振り返れば、荷物を持ったまま固まっている橙色の姿がある。


熱に浮かされたような面持ちで、顔は赤さを通り越してどす黒い。


「ど、どくどく……」


その擬音語の何が悪いのだろう。


心臓はどくどく言うじゃないか。


「芹霞を壊すくらい……」


それくらい早い鼓動さえ、ちゃんと本物のように感じ取れていた、と言ったつもりなんだけれど。


色々台詞を思い返しても、赤面する要素はないはずだ。


あたしは困って、櫂を仰ぎ見た。


「!!!!」


すると櫂は、明らかに不自然にあたしから顔を背けた。


「!!?」


だからそちらに回り込み、ゆっくりその顔を見ようとしたのだけれど、


「な、何よ~、櫂ッ!!!」


今度は反対側に顔を背けられた。


気づけば、あたしと眼を合わせてくれる男はおらず、


「な、何!? 皆してどうしたの!?」


発言主のあたしだけ喚(わめ)いている。


泣きたい気分になってきた時、


「お、俺、荷物部屋に運んで……くるわ」


煌がふらふらしながら、全員の荷物を集め直し、そしてまたふらふらと赤い絨毯の敷かれた螺旋階段を上っていく。


途中壁に頭をぶつけたり、階段を踏み外したりして、中々前に進めていないようだったけれど、何とか2階に上れたようだ。