「何だ、突然――停電か?」
驚いたような煌の声を被せるように室内に響いたのは、マイクを通した荏原の声で。
「ご歓談中、誠に失礼いたします。
皆様、暫くお待たせ致しました。
各務家当主のご長男をご紹介致しますので、壇上をご覧下さい」
マイクが用意された壇上にスポットライトが照らし出されたが、開かれたドアから誰も入ってこない。
会場がざわめき出した頃、やがて姿を見せたのは男性ではなく女性だった。
透けるような白い肌に、黒い長い髪をリボンで結って。
弱々しく頼りなげな華奢の体。
今時珍しい、控え目で清楚な物腰。
豪奢な金の鳳凰の模様がついた、赤い着物を着ている。
歳は俺と同じか、もっと下か。
「薄幸の美少女、か」
人の同情をひくような楚々たる娘が現れたのは、意図的なものか。
目を細めて観察を始めた時、
「!?!」
突然脇腹を捻り上げられ、俺は矜持に賭けてかろうじて声を抑えこむ。
見ると――芹霞だ。
芹霞が拗ねたような面持ちで俺を見て、脇腹を抓っていた。
「???」
どうして抓られたのか、俺は判らない。
どうして芹霞からそんな目を向けられるのか判らない。
すると、大げさすぎる遠坂の溜息が聞こえた。
フォアグラにかぶりつきながら、哀れんだ眼差しを向けてくる。
「あのさあ、紫堂って頭が凄くいい割には、オトメゴコロに疎いよね」
また、オトメゴコロ?
俺は目を細めた。
「というより、鈍チン同士だよね」
「は?」

