あひるの仔に天使の羽根を

 
「なあ旭。お前は緋狭と何を約束していたんだ? もういい加減教えてくれよ」

誰も居なくなってしまった"約束の地(カナン)"。


オレは、本を読み始めた旭に聞いた。


「刹那様は、怒りますから」


「怒らないから」


「本当ですか?」


オレは頷いた。


「刹那様が大切に思う人を守る約束。つまり…せりかちゃんを守ること。せりかちゃんを守るとうことは…せりかちゃんが大切な…」


そこで旭は言葉を詰まらせた。


「紫堂櫂…本当に嫌な奴だよ。

我が物顔でせりを奪っていきやがって」


「刹那様。あの時偶然にも塔が崩れなければ、刹那様が勝って…」


横に控えた蓮が口を開く。


「緋狭か…あの青い男の仕業だ。緋狭達には判っていたんだろう。せりの"永遠"の相手は…オレでも弟でもないっていうことに」


「しかしそれでは刹那様は!!! 刹那様は待ってらしたのに!!!」


待って…いたよ。


もしもせりがまた来てくれたら。

もしもせりがオレを選んでくれたら。


「だけどせりが必要なのは、オレじゃない」


「何とかなったはずです!!! どうして…」


珍しい。感情を余り見せない蓮が。


「あんなに…あの女を好いていたのに」


「へえ? 蓮にはそう見えたんだ。どこら辺で?」


「……。いつも瑠璃色の瞳が…あの少女と、そして紫堂櫂を目の前に、激昂の…紅紫色に変わりますから」