あひるの仔に天使の羽根を

 
どうして死ねなかったのか。

どうしてまだ苦痛が続くのか。


目覚めてしまったオレ。


見慣れぬ土地で、互いを貪り喰らう天使達が居て。

死んだはずの者達が、"生者"を擬態していて。


限りなく続く悪夢に、発狂したくなった。


感情は捨てよう。

こんなものはいらない。


オレを必要としてくれるのは誰だ?

オレは何のために仮初の生を生きればいい?


そんな時――


現れたのは再び…赤い少女。


抱いていたのは、熱の出したせり。


少女は言う。


「埠頭で妹が落ち、嵐に巻き込まれて流れ着いた。まさか再会出来るとはな。悪いが…お前達の記憶は消させて貰ってる」


それでもいい。


せりには怖い思いをさせてしまったから。


オレの中で弟の意識が泣いている。


弟も…オレと同じように、誰かに必要とされたかっただけ。


それはもう、遅すぎる懺悔だけれど。


せりは呟いた。


「かい……だいすき…」


心が締め付けられた。


「あたしとかいは…えいえん…なかないで…」


赤い少女…緋狭は、足早に去っていった。


早く清潔な場所で手当したかったらしい。迎えの船に乗り込み消えた。


彼女の去った後には…

整然とした、秩序在る世界が生まれていた。


彼女が何をしたのか判らないけれど…


蓮と司狼と旭と月は…


最低限の"知識"を持ち、オレに従順な姿勢を見せた。