あひるの仔に天使の羽根を


助けた少女の目が開いた。


一瞬――

魅かれたのは、黒目がちの大きな目。


あどけない…まだ幼女に、オレの心が揺れた。


その瞳に、縛られてしまった。


"かんざきせりか"と名乗った少女。


オレは――

どうしても本名を呼んで貰いたくて。


"かがみせつな"


そう名乗った。


何か言いたげな旭に、唇に人差し指を当てながら…


本名で…弟のふりをする。


オレは、皆の矛先をオレに向けるためだけに、

強気で傲慢すぎる"久遠"を演じてきたから。


知って貰いたかったのかも知れない。


オレだって、弟のように穏やかに生きたいと言うことを。


幼女は、オレを…コンプレックスの塊であるオレを、綺麗だと言った。


それが本心だと判ったから、凄く嬉しくて…泣きたくなった。


こんなオレでも、綺麗だと思ってくれる人間がまだいる。


それは彼女だけかも知れない。


彼女が愛しいと思った。


幼女だけど、あと数年経てば…彼女も大人になる。


それまでもしまだオレを綺麗だと思っていてくれたら、その時は…。


せりに興味を持ったのは、オレだけじゃなかった。


そしてせりが興味を持ったのは、オレじゃなかった。


せりは刹那を求めた。


オレではなく。