あるのは、俺が唾棄したい8年前の思い出で。
それを取れば、玲や煌との違いは一体何だ?
他に縋れるものがあるとすれば、紫堂の次期当主の座で。
しかし"王子様"の境遇でも靡かないのが現状で。
それでも"王子様"で無くなければ、益々芹霞が遠のく予感に戦(おのの)き。
不安なんだ。
もし俺に突出した何かがあるのなら、
今、こんな状況には陥っていない。
芹霞は既に俺のものになっている。
繋ぎとめられるものが何もない。
なあ、芹霞。
待つのは疲れたんだよ、俺。
――芹霞ちゃあああん。
2ヶ月前、お前からのキスで、
何かが変わると期待したのは間違いだったのか?
お前にとって、俺は何?
「せり……はぁ…ッ…か…」
俺の苦しい喘ぎが芹霞を覆う。
深くなる口付けで声すら満足に発声できない。
芹霞の熱に酔いしれ、意識が飛びそうだ。
もっと、もっと。
俺の中の貪欲な獅子は叫ぶ。
足りない。
こんなんじゃまだ生温い。
まだまだ、俺の方の想いが強すぎる。
まだまだ、この想いを伝え切れていない。
俺は掴んだ芹霞の手を俺の首筋に回し、さらにきつく抱き締めた。
密着する身体。
されるがままの芹霞と、より一層深く交じあう。
言葉無き息遣いと粘着音が、淫靡に響き渡る。
目眩(くるめ)く――。