あひるの仔に天使の羽根を


本当の名前を無くして、偽りの愛に愛想を返し、ただ弟を護る為だけの無気力な日々。

オレの生きる意味は何?


母が美しいと呼んだこの顔も肉体も、血の繋がり故余計に…オレには穢らわしくて、醜すぎるもので、大嫌いだった。


オレという存在は、幻影なんだ。


"爺"は狂い、各務を崩壊に導いていく。


それでもいいと思った。


もうどうでもいい。


ただ願わくば。


弟の刹那には、この思いをさせないように。

刹那には、意味ある人生を送って貰えるように。


だから、"巫子"という役目を与えたんだ。


"喰われる"巫子。


それを聞いたのは――


突然現れた、赤い色に包まれた少女からだった。


彼女は…"緋狭"と名乗った。


そこまで"爺"が道具に考えていたのだと、絶望する。


そして気分転換に湖に出た時だ。


幼い少女が湖に溺れていたのを見たのは。


横に居たのは旭。


悍しい宴の餌になろうとしていたのを、オレ達が助けてからは家を抜け出して…各務家のオレ達に会いに来ていて。

彼女は、隔離された刹那のいい話相手だった。

その旭が泣いていて。


指差す湖上には、黒い本。


屍食教典儀。


見当たらないと思っていたら、旭だったのか。