「だから、あたしは泣きたくは……」
噛み締めた下唇を、櫂の長い指がなぞる。
「なあ。
血が出る程、俺を拒むなよ」
そう切なげに声を出すと、
「!!!」
唇を噛んでいる歯ごと、舐められた。
吃驚して思わず口を緩めれば、
「消毒」
下唇を更に舐められ、
「!!?」
逆に噛み付くように唇を押し付けられた。
櫂は。
櫂で。
櫂なのに。
頭の中は櫂でいっぱいで。
手でどんどん叩いて抗ってもその手は押さえつけられ、
身体を後方に逸らして逃れようとすれば、覆いかぶさるように攻められる。
ちらりと目に入る、紅に染まった櫂の首筋に、鎖骨に。
誘うような櫂の艶めかしさに、あたしの力は次第に失せて。
おかしな恍惚感に、心臓の跳ねが止まらない。
長い睫を伏せた、絶妙な美しさを誇る櫂の顔は。
ああ、櫂はここまで艶っぽい顔が出来るんだ。
背筋がぞくぞくした。
それはまるで禁忌のような興奮(スリル)で。
「……ふ。目を開けてられるとは、俺も随分と舐められたものだな」
掠れきった声で、耳元で囁かれた。
「その余裕
――崩してやるよ」
甘さを滲ませ熱く潤んだ櫂の目が、怖いくらいに真剣のものとなり、
再び唇を塞がれた。
それは更に荒々しいもので。
抗すべきなのに、心地よいシトラスの香りに溺れそうになる。
溺れたい気さえしてくる。
角度を変えて攻めてくる唇。
激しすぎて、受け止めきれない。
そして――
本能的に閉じた唇は、櫂の舌で無理矢理抉じ開けられ、
「――ッ!!?」
熱い櫂の舌がねじ込まれた。