あたしの手を持つのが辛いのなら、早く離して上げなきゃ。
あたしの右手は、うん。まだ頑張れるみたい。
「!!! せりか、駄目だ!!! 離すな!!!」
「またね、れいくん」
あたしがそう笑って、掴まれた手を捩るようにして振り解こうとした時。
「玲、代われ!!!」
"れいくん"の手が外れるのと同時に、別の手が伸びてきて、あたしの手首を掴む。
下降に揺れたあたしの身体は、また宙に止まり…少しずつ上に上がっていく。
ふわり、ふわり。
まるで旭のような、天使のようで。
そういえば旭は何処にいるんだろう。
――刹那様あああ!!!
ずきん。
頭が痛い。
いいや、後で考えよう。
見上げたら、真っ黒い瞳があたしを見ていて。
さらさらでこぼれるような、真っ黒い髪。
綺麗な綺麗なお顔。
絵本の王子様みたい。
初めて見るけど、何か懐かしい気がして。
「はじめまして!!!
あたしは"かんざきせりか"っていうの。
お兄ちゃんはだあれ?」
すると黒いお兄ちゃんは、泣きそうな顔になった。
不思議。
旭の泣き顔とだぶって見える。
「お兄ちゃん…泣き虫なんだね?
あたしがまもってあげるよ!!!
ねえ、お兄ちゃんのお名前、教えて」
すると、今度は…まるで天使のようにふわりと微笑んだ。
「しどうかい」
その低い声に、あたしの心はざわめいた。
「"かい"っていうんだ。王子様みたいで格好いいね」
下に居る久遠に笑いかけたのに、久遠は怖い顔をして笑ってくれなかった。
変な久遠。

