「芹霞!!?」
はっとして、その腕を掴もうとする僕を擦抜け、彼女は…芹霞は、
塔の外に迫り出た神楽に向かって走り出し。
神楽には――
いつの間にか、久遠が舞っていたんだ。
こんな時に。
櫂と白皇がぶつかり、芹霞が奪われるかも知れないという切迫した状況の中、くるくると舞い踊る久遠の姿は、幽玄で妖艶で。
そこだけが夢幻な別世界のようで。
未だ尚続く鈴の音に、何処からか笛の音が重なり。
僕が目にしたのは、神楽の外周にずらりと一列に並んだ――
「いつの間に!!?」
各務の者達。
各務樒、各務須臾、各務柾、各務千歳…そして、見慣れぬ老人と"生き神様"。
その顔には"表情"がない…まるで死人のようで。
どくん。
僕は、白髪の老人を見て心が震えた。
芹霞が、彼に縋って――
「刹那ーーー!!!」
そう叫んだから。
僕は、動けなかった。
くるくる、くるくる。
久遠は舞う。
僕達の哀しみも苦しみも、全て祓うように。
――しゃん。
やがて、鈴と笛の音が鳴り終わった時。
背を向けて踊りを止めた久遠が――
「え!!?」
一番近くに居た…虚ろ顔の須臾の身体を強く押した。

