僕の目の前で、白皇と櫂が激しくぶつかりあう。
その衝撃波に、物理的作用によって生じた風が、上方に向けて迸(ほとばし)る。
身体が持って行かれそうな凄まじい風圧に、結界を作る力が回復していない僕は、身体で芹霞を覆った。
肉と肉、骨と骨がぶつかる生々しい音。
音から察するに、白皇の力は半端じゃない。
緋狭さん程ではないにしろ、魔力だけではなく…武力のみでも五皇を名乗るだけの実力の持ち主と言うことか。
櫂は――
櫂は大丈夫か!?
紫堂の力が回復していないのは、櫂もまた同じ。
紫堂の力に頼らずして、白皇と交戦出来る櫂の体術は、
いつにまして洗練され、無駄ない見事なもので。
彼の持ち得る肉体のバネを最大限に生かし、五感と第六感を駆使した格闘術は、白皇に競り負けてはいない。
まるで鋭利な刃を秘めた風のようだ。
白皇も櫂の力の程が判ったのか、非常に好戦的な光を目に宿し、嬉しそうに舌なめずりをする。
それを見た櫂も、にやりと不敵に笑う。
本能的な、より強い雄同士の…闘争欲。
ああ、櫂はそんなに強いのか。
此処まで芹霞の為に強くなったのか。
速度や攻撃、防御に関しても非の打ち所が無く。
美しい、と思う。
僕達を守ろうとするその勇姿は、美しくそして気高く。
その存在感は絶対的で。
ああ――
こんな時に、僕は何を感激しているんだ。
僕にはあり得ない、強靱さ。
同じ紅皇に師事して、此処まで差が出るものなのか。
紅皇が、櫂に一目置く理由がよく判る。
完敗と言うより、ああ――
櫂ならばこそ、僕は――
櫂と同じ時代に生きれてよかったと思う。
同じ血を引けてよかったと素直に思う。
櫂の下につけてよかったと思う。
僕は従弟が誇らしい。
僕は――櫂と共に生きたい。
その、一瞬の気の緩みだった。
「久遠!!!」
僕の中に居た芹霞が、僕を突き飛ばして走り出してしまったのは。

