「なあ芹霞」


射竦めるような漆黒の瞳が向けられて。


「白皇との賭けには勝ったはずだ。

それとも…始めからそう…決めていたのか?」


ああ、直球できたか。


「うん。櫂なら…矜持に賭けて最短でやってくれると思ったから。利用してごめんなさい」


あたしの謝罪の言葉に、僅かに苛立ったように…漆黒の瞳が揺れる。



「お前は――

俺が欲しくないのか?」



あたしの好きな、深みのある…玲瓏な声。


少し震えて掠れている。



「お前は、俺との"永遠"はいらないのか?」



憂いの含んだ切れ長の目。

さらさらの漆黒の髪。


大好きだったよ。


あたしの櫂。

あたしの『気高き獅子』。


「いらない。

あたしは、久遠が…刹那が欲しい。

彼らとの"永遠"が欲しいの。

今まで嘘ついてて……」


ああ、泣きそう。

だけど堪えろ。

頑張れ、あたし。


「本当にごめんなさい」



あたしは櫂に頭を下げた。



「もう…俺が何が言っても、遅いのか?」



脳裏に、必死に思い出す櫂との思い出。


今までありがとう。

そしてさようなら。


心臓が…陽斗が痛い。



「……うん。変わらない。

ありがとう、こんなあたしを好きでいてくれて。

もうあたしから解放されて、いい子を見つけてよ」


痛い。


心が引き千切られそうに痛い。



それを隠してあたしは微笑んだ。



暫しの沈黙。



そして――



「……判った」



抑揚無いその声に。


あたしの胸は張り裂けそうになった。