「"生きて"いることにより、人間がここまで浅ましくなれるのなら、その尽きぬ欲を更に突き詰めれば、何が現れるのでしょう? 私の怒りは、生半可なものではなかった。人間として最悪な罰を与えたかった。彼個人だけではなく、その血を引き継ぐ者全てに制裁を加えたかった。
そして同時に…"彼女"を救いたかった…。
私は白皇とレグいう立場を隠して、ただの執事の荏原として各務家に入りました。表向きは執事ですが、裏では…増殖した天使の統制を。何とか信頼は得られたようで。秘密裏に行われる、魔術的な様々な実験に関わっていました」
「何故だ? お前の目的と行動は矛盾していないか?」
「四肢を喰われて尚生きる"彼女"を、完全復活させる為には魔力が必要でした。その魔力を測り、得る為には、有翼人種の実験は不可欠でした。
不思議なもので、"彼女"の腹から産まれた子供の実験だというのに、私の子供ではないと思えば…それだけで妙に気分が冷めましてね。逆に憎くすら思えて、破壊衝動が湧いたのも真実です」
それは恐らく、愛憎の念で。
「そして…蠱毒の方法に行き着いた訳か」
頷く白皇。
そしてその結果は、上辺だけの主人(マスター)たる藤姫に伝えられたのだろう。
それが、2ヶ月前…応用されたというのか。
いや、2ヶ月前こそが、今回のサンプルだったのか。
「乱れるにいいだけ乱れた各務家は。私が手を下すまでもなく、何れ堕落して滅ぶだろうことは判りました。私はその手助けをさせて頂きました。欲に振り回された各務翁を始めとして、その血の連なる者の背中を押せば、気持ちいいくらいに狂ってくれましたね。近親相姦故の異常性…土台が出来ていたからでしょうか。
狂いは連鎖します。恐怖と抑圧の環境に居れば、天使でも狂う。そしてそれは血によって、更に伝播し…拡大する」
ぎり。
そんな歯軋りの音を見れば、玲からで。
気狂い。
母親の影から抜け出せずに、豹変を畏れる玲は…痛い程、その言葉が心に染みいるのだろう。

