「ああ、ようやく久遠様の支度が出来たようです」
白皇がにやりとした笑いを浮かべて促した場所。
赤い壁が突如、横にスライドして――
「!!!」
現れたのは、久遠。
須臾が身に着けていた赤い豪奢な着物と簪(かんざし)を身に付けて、
ほんのりと化粧を施した顔は、蠱惑的な顔の造りを更に妖艶に揺らめかせていた。
着物の赤さと対比的な瑠璃色の瞳が、更に妖しげで。
歩く音さえも幽玄に奏でる…夢と現(うつつ)の狭間に揺らめく姿は、至って凡庸の表現をするならば"天女"。
人を惑わし、誘う……人外の存在。
天からの御使い…それは"天使"のようで。
それは人を堕落させる"悪魔"のようで。
和洋、善悪…相反するものを1つに融合したその揺らめく妖しさは、須臾の美しさの比ではなく。
圧倒的な美貌に、俺は息を飲んだ。
久遠の顔には、いつも以上に表情がなく。
まるで整いすぎる仮面を被っているようで。
生気を感じさせぬ虚無の色が、更に幻想的だった。
「話が違う!!! 久遠に何したのよ!!!」
芹霞が、真っ青な顔をして怒鳴った。
「やめてよ、やめてよ!!! 久遠までおかしな巫子にしないでよ!!!?」
"まで"?
玲や俺の制止を擦り抜け、久遠の元に赴こうとした芹霞は、見えない壁にぶつかったように、不自然な角度でしりもちをついた。
そんな芹霞を見ても、久遠の表情は変わらない。
それを愉快そうに眺めた白皇が1歩前に足を踏み出した時、反射的に玲が芹霞を庇うように間に立つ。
「あまりに暴れるので、少しばかり術で大人しくしていただきました。身体は動かないだけで、意識はありますよ。どうです? 仮初の"聖痕(スティグマ)の巫子"とは違い、本物の巫子は綺麗でしょう?」

