あひるの仔に天使の羽根を

 
穴を潜って下に突き進めば、まるで洞窟。


仄暗いその道は、明らかに人工的に手を加えられたように整備されていて。


ひんやりと冷たい空気が、奇妙な不安感を誘う。


「ひっ!!?」


突然芹霞が驚いた声を出し、櫂の後に隠れた。


横に、崩れた骸骨がある。


「ああ、罠で死んでしまったヒトですね。

もう、ぼくと月とで全ての罠を外したんで安心ですよ」


平然と言い除ける旭は、姿からは想像出来ない大人びた笑いを浮かべ。


罠――?


外せるだけの知恵と技術があるのか、こんな子供に。

旭は身を屈んで、その長い骨を1つ拾い、生前着ていたのだろう汚れた服布を巻き、落ちていた石を擦り合わせて火をつける。


「旭くん……器用だね」


芹霞が感嘆の声を漏らした。


旭は、生き残る術を知っている。


旭が出来上がった照明を手にした時、櫂が上から静かに取った。


途端に空間の明るさの幅が拡がった。


「あ、ありがとう」


複雑そうに旭は笑った。


櫂はそれに対し、


「どういたしまして。

色々世話になってすまんな」


口許で笑って、静かに頭を下げた。


櫂らしからぬシャツのせいもあるだろうが、1つ1つの所作には気品がある。


そんな櫂の姿に旭は唖然とした顔で見ていたが、

やがて慌てて同じように頭を下げた。