あひるの仔に天使の羽根を



「行きましょう」


旭が言った。



気づけば月の姿はもうなく。



「ねえ、旭くん。

大丈夫なの、月ちゃん1人であんなとこ……」



芹霞が"無知の森(アグノイア)"を見た。


「大丈夫。月は――

ぼくよりしっかりしてますから」


旭はそう言い切り笑った。


しっかりしているのは、旭の方ではないか。


芹霞の言葉に、由香ちゃんも同調した。


「たかだか4、5歳の子供なんだぞッ!!

何かあったらどうすんだいッ!!!」


由香ちゃんが声を上げた。


「4、5歳の子供?

あははは。そうですね、それなら大変ですけど」


そう意味ありげに笑いながら、


「月は強いから大丈夫。

さあ"きょうしんしゃ"がこちらに来る前に、早く行きましょう。もう時間がない」


有無を言わせぬ強い語気に、僕達は顔を見合わせた。


旭が促すまま、ぼく達は"無知の森(アグノイア)"を浅く踏み込んだ処で大きな木の根を見つける。


「"約束の地(カナン)"は、ある大木の根でつながっています。

知っているヒトはまずいないでしょうね。

さあ、ここから中に入れます。早く……」


旭以上の大きさの大葉をどかせば、大きな穴が見えた。