薬がないんだ。


僕が自分で収めないと。


月長石の力は――

頼ることが出来ないから。


こんな無駄なことには使えないから。


「芹霞……」


僕は、煌の肩にいる芹霞に手を伸ばした。

芹霞は僕の薬だから。


芹霞が居れば安定出来るから。



「……?」


不思議そうな顔で僕を見る芹霞。


違うんだ。


明らかに、前の芹霞じゃないんだ。


僕を見ていない。


まるで初めて見るような顔をして。


判っているのか?


僕は此処に居る。


君をこんなに想っている。


そう簡単に終わらせないで。


僕の恋を、散らさないで。


僕を――

どう思っている?


そう思った僕の心臓は、突如体を壊すかのように烈しく打ち始めて。


やばいとか。


そんな不安を通り越して、僕の意識は薄れていき、



「櫂…早く、外に連れろ。

あれを呼べるのは――外なんだ」



僕の声は聞こえているのだろうか。


何か声が聞こえて。


近付く薄い輪郭が誰のものかは判らないけれど。


願わくば、僕を心配する芹霞のものであることを祈った。