そんな櫂の言葉を裏付けるように、聞こえてきた悲鳴は芹霞のものではなく。


「どうしてどうしてどうして!!?」


気狂いじみて髪を振り乱す、須臾からのものだった。


そんなこと、俺が聞きてえよ。


「邪痕が生命の樹を司るのなら、正反対の"聖痕"は邪悪の樹を背負っている。それを知らずに須臾が使うのは、土地から奪う生命の樹の力。その土地の魔方陣が破壊されて、力自体が芹霞に移行している今、須臾の力は効果ない」


だけど、だけどよ


「俺達がしたことに意味があったというのなら、どうして此処に久遠がいる? 久遠は何してたんだよ!?」


華やかな美貌を、翳らす闇色の装束。


冷え切った瑠璃色の瞳に映しているのは…黒い光に包まれた芹霞だけ。


泣き叫ぶ須臾には目もくれない。


マイペースな男だとは思っていたけれど、懐柔はこの上なく難しそうな…元々俺達、特に櫂や芹霞には好意的でもない男が、よりによって何でこの格好で、ここに居たんだ?


どうしてそれを櫂が許し…したいようにさせていた!?


「気づいたんですね?」


不意に薄い笑みを浮かべたのは荏原で。


力を消したようだ。


「久遠様の…金緑石に」


「ああ」


櫂は頷いた。


石?


「久遠の瞳が…金緑石さ。あいつだけは須臾の力も…この土地の力にも影響を受けない。だからこその"断罪の執行人"だ」


「"断罪の執行人"って…はあ!? 大体こいつは各務の御曹司で、毎日沢山の女とヤッて、"あの域"到達してやがる奴で…しかもこの格好は、鐘の音が鳴る間に出てくる首刎ねまくる死神で…はあああ!?」


「……。煩いな。躾がなってないぞ、紫堂櫂」


狼狽するだろ、普通。

しかし驚いているのは俺だけのようで、桜は静かに考え込んでいて。


「久遠の力は"転写"だ。布陣・守護石…恐らく力の媒介となりえる全てのものに言霊の力を乗せて、不可能を可能にさせる。だからやって貰ったのさ、芹霞より先に…須臾へ"邪悪の樹"の転写をな」

つまり…土地がひっくり返って"邪悪の樹"の意味合いとなった今、その力を使える芹霞だけが、須臾の未来を握っていると言うことか?