――カラーン。



「戻して…今を綺麗さっぱり忘れたら?」



俺の低い声に、氷皇は笑いを止めた。



「見抜いて…いたわけか」


やはり。


俺は、気づかれないように小さな溜息をつく。



「当然。でなければ、紅皇がまずそれを試していただろう。こんな危険な目に合わせることなく、速やかに。それが出来ずに、俺の判断に委ね…尚も此の地を奔走するあいつらに力を貸したということは、心情的にやむを得ぬ…躊躇われるべき事情が隠されているということだ」


だから――


"それ"は俺の選択肢にはなく。


そしてまた。


煌や玲、桜の中にも、その選択肢はないはずで。



――カラーン。



「我儘だね~、気高き獅子。それで自分の首締めているのにね」



嘲るような笑みながら、それでも愉快そうな口調。


「あれは嫌、これは嫌。だけど欲しいものは全て手に入れたい。…あはははは。本当に君は"貪欲"だ」


俺は不敵に笑う。


「"邪悪の樹"の"貪欲"の担当が俺ならば、十分満喫してやるよ。もう俺じゃなきゃいけないって程、貪欲の獅子にて…噛み付いてやる」




――カラーン。




「俺達は各々役目がある。それが判っているのなら、俺がどうしたいのか…あいつらだって判るはずだ。ただ闇雲に死に焦る愚か者ではない」


それは信頼。


不屈な闘志を信じるが故の…俺の希望。



「じゃあお手並み拝見としようか、気高き獅子」



氷皇が立ち上がる。