「何か…酷い瘴気を感じるね」
走りながら、玲様は端麗な顔を歪ませた。
「同感。道は違うけどよ、これって……」
玲様と同じ1点を見つめた煌が呟いた。
「"生き神様"。似ていると思わねえか、あの地下の瘴気に」
「そうだね。位置的にも近いし。だけどそれだけではなさそうだ」
「……複数の気配、感じますね」
私は警戒心を露にしながら言った。
正確に言えば、"感じる"というより、"聞こえる"だ。
複数の話し声が。
その時、道は左と真っ直ぐの分岐に差し掛かって。
左側の道から聞こえるその音に、玲様は足を止めた。
「かなり近いな。少しだけ…覗くか」
そして私達は足音を立てずに気配を殺し、大きくなる物音の先を走査すれば。
階下の存在を示すかのように、足元の鉄格子の穴から明かりが漏れていて。
そこから流れ聞こえる…雑音。
屈みこみ、そこから見えたのは――
「!!!」
筒状の透明な硝子の…巨大な水槽に入っている…
「何だ、あれ?」
声音を抑えた煌の言葉に答えず、玲様は意識的に感情を抑えたかのような冷たい面持ちのまま。
「なあ、桜。あれ…どうみても、『胴体』だよな?」
代わりに振られた私の目にも、そうとしか思えぬものが映っている。
水槽に入っているのは、分離された肉体。
四肢が落とされ…女の胴体。
水に靡く、女の黒々とした長い髪。
そしてその装置から外に伸びる、無数の白いチューブ。
そしてそのチューブの先には――

