櫂は眉間に深い皺を刻み込んで、考え込んでいる。


そしてぼそりと言った。


「司狼が言った"1個"だの"10個"だのって…藤姫の魔方陣のことだよな?」


それは、何かに縋ろうとする必死な瞳で。


まるで神に縋る信者のよう。


「恐らくね……ん? だとしたら、それだけの数が此の地にあるということか?」


石の扉が複数あるのだから、魔方陣も幾つかあるとは思っていたけれど、そんな数になるとは僕は想定していなかった。


「俺…須臾の棟と此処の地下にあったの、桜と見たぞ」


僕は櫂と顔を見合わせた。


「魔方陣を…何とかすればいいのかな。邪痕は消せなくとも、流れる闇の力は抑えられるのか?」


それは、頼みの綱のような術。


「だけどよ、玲。それ以外何処にあるのか判らねえぞ? 全員で手分けして探した処で、その鐘が鳴る前に見つけられる保証はない。その鐘がいつ鳴るのかも判らねえんだ、俺達が聞いた時は昼前だったがよ」


「それにもう1つ…難点があるね」


僕は溜息をついた。


「その魔方陣が藤姫のものと同一なら、それを破壊出来るのは、紫堂の血を引かない桜だけだ。桜が全てについて回らないといけない」


「やります、玲様。桜、全力疾走で走り回ります!!!」


「…時間が足りないし…方法が原始的だ。更には石の扉があれば、俺しかすぐに開けない。効率が悪すぎる。もっと…いい方法があるはずだ」


そう呟いたのは櫂。


目を瞑り、それ以外の方法を考えているようだった。


そして。


「ちょっと…きてくれ」


櫂は、神妙な顔つきで立ち上がると、踵を返すように颯爽と…ドアが破られた部屋に赴く。


一瞬だけ。


僕の手の中にいる芹霞を、切なそうに一瞥して。



だけど櫂は――

引いたわけではない。


この場を僕に譲っただけだ。


彼は見抜いているんだ。


僕と芹霞のお試しの付き合いは、偏に僕の執着故のものだと。


芹霞の中から、僕の想いを感じたわけではないんだろう。


僕を芹霞の恋人だと認めたわけではないんだ。



それが僕には――


酷く悔しかった。